2023科学よもやま話/夏

  子どもにエサを運ぶ虫

今から30年ほど前、佐賀県に生息するベニツチカメムシという昆虫で、母親がエサを運んで子育てをする行動が見つかりました。カメムシの仲間では世界で初めての発見でした。

ベニツチカメムシの成虫

このカメムシは、ボロボロノキという植物の実だけを食べます。実が熟す初夏になると、カメムシの母親は落ち葉の下に巣を作って卵を産みます。幼虫がふ化すると、母親は巣から出てボロボロノキの実を探し回り、見つけると巣に持ち帰って幼虫に与えます。この際、元来た道をたどるのではなく、実があった場所から巣の方角へとまっすぐに歩いて帰ります。見上げた森の景色から、現在地と自分の巣との位置関係が分かるのです。
幼虫たちは夏には成虫になり、翌年のボロボロノキの実ができるまでの1年近く、集団をつくって何も食べずに過ごします。カメムシの腸内にいる特殊な細菌が、老廃物を栄養分へとリサイクルしているようです。
私たちの身近な里山に、このような驚くべき性質を持った昆虫たちが静かに暮らしています。

執筆:徳田誠(佐賀大学農学部 生物資源科学科)

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2023年 夏  シリーズ<子どもにエサを運ぶ虫>